定年退職後に仕事をお探しの方。もし、あなたが子ども好きで、教えることが得意なら、「放課後学習支援員」にチャレンジしてみませんか? こちらは、放課後を活用して、学校や地域の公民館で小学生から高校生の学習をサポートする仕事です。
仕事内容からすると意外に思えるかもしれませんが、「教育免許なし」でも働けるお仕事です。学習支援をする上で必要な知識や指導スキルさえあれば、教育免許や塾や予備校で働いた経験なしでも大丈夫。事前に研修も用意されているので安心です。また、個別指導やグループ指導を担当する「講師」のほかに、学習支援の運営をサポートする「管理者」という職種も存在。放課後の時間を活用して行う仕事なので、勤務時間は比較的短めです。残業が発生したり、シフトが変動したりすることもほぼありません。そのうえ、未来ある生徒たちと関わる仕事ですから、大きなやりがいを感じられるでしょう。
今回は、テレビ番組制作会社を定年退職されたあと、私立中学校・高校で「放課後学習支援員」として働いているUさん(60代・男性)に、詳しい仕事内容などをお聞きしました。
経験ゼロから教育現場へ
―― 定年退職されてから、「放課後学習支援員」として働き始めたと伺っています。そうですね。定年退職するまでは、テレビ番組を制作する会社、いわゆる制作プロダクションでプロデューサーをしていました。
―― 過去に塾講師など、教育に携わる仕事をしていたことはあったのですか?
知り合いに頼まれて個人的な付き合いで語学を教えていたことはありましたが……。「仕事」として教育に携わった経験はありません。
―― 以前されていた仕事と業務内容は大きく異なりますが、なぜ定年退職後に「放課後学習支援員」にチャレンジしようと思ったのでしょうか。
以前の仕事に飽きてしまったといったら身も蓋もありませんが、まぁそんなところでしょうか。定年直前に病気をして、体力的に無理ができなくなったのも理由の1つです。とはいえ、家にこもるのは性に合わないですし、社会とのつながりも持っていたかった。それに、子どもがまだ学生だったので、少しでも家計の足しになればと、これまでとは別の環境で働ける短時間勤務の仕事をしようと思ったのです。
―― 「放課後学習支援員」という仕事は、以前からご存じでしたか?
いえいえ、知ったのは偶然ですね。実は、初めは家庭教師をしようと思っていました。というのも、私はもともと語学が好きで英語を得意としていますし、子どもと関わるのも好きだったからです。息子が所属していたサッカークラブでコーチをしていたこともあったんですよ。それで、子どもに何かを教える仕事が自分に向いているのではと思って、英語の家庭教師として派遣会社に登録しました。しかし、なかなか仕事が決まらなくて……。
―― 何か事情があったのでしょうか。
やはり家庭教師業界では、受験を終えたばかりの現役大学生、または経験豊富な元教員、塾や予備校の講師が多く求められているのでしょう。結局、登録してしばらく経ってから、派遣会社に「放課後学習支援員」の仕事を紹介してもらいました。それから3年ほどこの仕事をしています。

働き方はさまざま
―― では、いまお勤め中の「放課後学習支援員」という仕事内容、さらには勤務時間について教えてください。私が働いているのは、私立の中学校と高校です。勤務日数は週3日で、毎日違う学校に通っています。職場によって業務が異なり、英語講師として個別指導をすることもあれば、グループ指導をすることもあります。また、学習支援を円滑に行うために運営「管理者」を務めることも可能です。毎日違う仕事をしているのは大変に思われるかもしれませんが、私は日々変化があって楽しいですね。勤務時間は学校によって違いますが、大体15時30分~19時くらいまでです。
―― なるほど。一言で「放課後学習支援員」といえど、さまざまな働き方があるのですね。
そうなんです。私が最初に行った仕事は、学習指導の運営をサポートする「管理者」の業務でした。仕事内容は多岐にわたりますが、ほかの講師の方々がスムーズに授業できるように、必要な資料や教材を間違いなく準備することを心がけました。こちらの仕事に関しては事前準備も不要だったので、特に不安はなかったです。
―― Uさんの場合は得意な英語を活かして、講師のお仕事もされています。最初は緊張したり、不安を感じたりしたんじゃないですか。
初めて教壇に立ったときは、自分から大きな声で生徒たちにあいさつをしました。緊張していたのは生徒たちも同じだったのでしょう。それをきっかけに、和やかな空気になったように思います。もちろん、「生徒たちが満足する授業になるか」といった不安もありましたが、それも杞憂に終わりました。積極的な会話を心がけて、どこが分からないのか、何を疑問に思っているのかを確かめ、理解できるように1つ1つ丁寧に指導していったのです。
―― 子ども好きだったからこそ、生徒たちとすぐいい関係が築けたのかもしれませんね。学習指導をするときは、ほかにどのようなことを意識していますか?
私は子どもと関わることが好きなので、初対面でもすぐに仲良くなれますが(笑)、とはいえ、生徒と講師の関係を崩してはいけません。打ち解けすぎないように気を付けています。1人の人間として対等に接すること、“勉強させられている”のではなく、“勉強している”という意欲を持たせること、劣等感を抱かせないことも大切です。あとは、信頼関係を築くために、生徒の話をよく聞く、いい加減な受け答えをしない、常に笑顔でいることも重要なのではないでしょうか。
―― とても熱心に働かれているのですね。とはいえ、教育の仕事に携わった経験がない中、「放課後学習支援員」として働くのはなかなか大変だったのではないですか? 何か苦労したことがあれば教えてください。
正直なところ、私の場合は特に苦労したことがないですね。もちろん学習指導を行うわけですから、ある程度の知識や指導スキルは必要でしょう。しかし、過去の経験や経歴以上に大切なことは、子ども好きであること、1人1人の性格や個性を理解して受け入れられること、生徒の未来を預かる重要性を理解することなど。そういった心構えや気持ちを持てるようになったのは、始業前に受けた研修の影響が大きいです。たしかに「放課後学習支援員」として働く講師の中には、教育に携わっていた方が多いのですが、異業種で働いていた経歴を理由に何か言われたり、いじめられたりすることは当然ながらありません(笑)。
―― 研修はどのようなな内容でしたか?
学校内での言動や服装、ハラスメントに関する注意といったモラルに関する事柄をはじめ、地震などの災害が発生したとき、生徒が怪我をしたり急病になったりしたときの対処法、先生方や生徒との接し方など、研修は多岐にわたりました。基本的な事柄に思えるかもしれませんが、教育現場で働いたことのない私にとっては大変ためになる内容でしたね。

働くのは生徒のため、先生のため
―― 私生活とお仕事の両立についてもお話を聞かせてください。3年ほど「放課後学習支援員」として働いてみて、いかがでした?教育現場でのお仕事ですから、働く曜日や時間が変動することはありません。自分のスケジュールにあわせて仕事を選ぶこともできるので、趣味に時間を費やせたり、個人的な予定を組みやすかったりして大変ありがたいですね。働いている時間のわりにお給料がいいのも嬉しいポイントです(笑)。また、未来ある生徒たちと関わる仕事ですから、大きなやりがいも感じられます。
―― どんなときにやりがいを感じるのでしょうか。
生徒たちが人間として成長したと感じるときですかね。いつも生徒には、「今勉強していることは、学校のテストや受験のためだけではなく、いずれ社会人になったときに必ず役立つことだ」と話しています。そのことを理解して、勉強に取り組む姿勢が見られたときはとても嬉しかったです。
―― 最後に教えてください。「放課後学習支援員」という職業の社会的な意義についてどのように考えていますか?
現在の教育現場では、先生方がたくさんの業務を抱えていて、生徒たちにきめ細かな教育ができなくなっていると言われています。私たち「放課後学習支援員」が学習支援という形で、そうした問題をサポートできるのは大変意義のあることです。それに加えて、生徒たちがさまざまな大人と接することは、人間的な成長の一助になるのではと感じています。これからも熱意を持って仕事を続けていきたいと思います。